Bar Pálinka 5周年記念ボトルとの出会い

Bar Pálinka 5周年記念ボトルとの出会い

 

20241224日でBar Pálinka5周年を迎える。

 

一つの節目にも感じるがオープン早々コロナ禍となり、営業自粛や時短営業などで5年も経過したという実感はない。今後もバーテンダーとしてもインポーターとしても成長をしていきたいと思う。

 

さて、今回5周年を記念して250本限定で長期樽熟成のパーリンカをお披露目する。

しれっと重大告知である。言うだけなら簡単だが、まずはこのパーリンカとの出会いについて、ラベルデザインについて、我々の想い、そしてテイスティングコメントを記していく。

読むのが面倒な方は下までスクロールしてどうぞ。

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時は遡り201710月。

私が初めてハンガリーを訪れた際にブダペシュト市内の飲食店でパーリンカを飲もうとバックバー(ボトル棚)を眺めていた時のことだ。

 

右側にずらっと並ぶ、ラベルに大きく描かれた「M」のマークが印象的なMárton és Lányai蒸溜所(マールトン・エーシュ・ラーニャイ、以下マールトン)のパーリンカが、そこに陳列されていた。

このお店は今はもう閉業してしまい存在していないが、ハンガリーで一番パーリンカを多く揃えているお店だった。

 

店員のハンガリー人も「この蒸溜所は本当にクオリティが高い。もし飲んだことがないのなら是非飲んでほしい。パーリンカの魅力をより知ってほしい。」とお薦めをしてくれたのを覚えている。

確かに、(2017年時点で)今まで飲んだどのパーリンカよりもアルコールの刺激が少なく、香りの濃さも余韻の長さも群を抜いていた。これは本当にすごいと感動し、棚に並ぶマールトンのパーリンカを片っ端から飲んでいった。とても素晴らしい体験をした。

 

ただ、この旅でのパーリンカに関するインプットがあまりにも多く、他のことにも精一杯で帰国後しばらくはマールトンに関する記憶が薄れていた。うーん、ポンコツ。感動とはなんだったのか。

 

次にハンガリーを訪れることになるのは20199月、Bar Pálinka開業準備の真っ只中だ。

この時点では既にお酒の輸入免許を取得しており、この渡洪は蒸溜所との契約などを目的とした仕入れ旅だった。

7日間で8つの蒸溜所とアポを取り、滞在最終日にはハンガリーで一番有名なバーでゲストシフトイベントをやらせていただいた。いい思い出である。

 

この時にアポをとっていた蒸溜所の一つにマールトンもあった。渡洪前にハンガリー政府のパーリンカ担当の方から紹介をされたことがきっかけだ。この時点ではまだ2017年に爆飲みしたことを思い出せていない。うーん、この。

スケジュールの都合で蒸溜所へ訪れることは叶わなかったが、ブダペシュト市内まで蒸溜所の方が来てくれ、パーリンカの試飲の機会を設けてくださった。そこでボトルが並んでいる様子を見て、記憶が鮮明に蘇る。

 

10種類以上のパーリンカを説明を受けながら飲む。やはりズバ抜けて高い完成度、多くのパーリンカを飲んできたが紛れもなく過去一番美味しかった。

 

この時メモ帳に点数をつけて自分の中で点数付をした中でも特に点数を高く設定したのがイチゴやラズベリーなどベリー系だった。ベリー系は高級だがその香りの強さは他のフルーツを圧倒する。その中でもこの蒸溜所は群を抜いていたのが印象的だ。

 

さらに時を経て20232

コロナ禍も開けて本格的な視察のためにハンガリーを再訪した時のことだ。

 

 

2日間で1500km運転して7ヶ所の蒸溜所とアポを取った時の話。時間は有限、とはいえ中々に過密なスケジュールだ。レンタカーを借りて2日目、念願叶ってMárton és Lányai蒸溜所へ訪れることになる。

 

観光地でもなんでもない、ハンガリーの片田舎に位置する蒸溜所。

この蒸溜所の近くにあるハンガリー最大の原子力発電所であるパクシュ原発で技師として働いていたマールトン氏は1991年に蒸溜所を設立。科学者ならではのノウハウで発酵や蒸溜の物質の変化をしっかりと見定め、高品質なものを作り出すハイレベルな蒸溜所となる。

 

ここで製法について責任者から話を聞くことができた。

創業当初は薪をくべて直火で蒸溜をしていたが現在は連続式蒸溜器を使用している。

連続式蒸溜器を使用しながら、単式蒸溜を2回行っているという。

一度に2回蒸溜ができる蒸溜器を使用しているのに、わざわざ単式で2……なぜそんな二度手間なことを……と思ったがそれこそがあのクオリティの秘訣なのだろう。爆発的な香りと整ったアルコールの口当たり。他の蒸溜所にはない洗練された品質の秘訣はそこにあるのだろう。

 

この造り方は今まで聞いたことがなかった(私の知識不足でもあるが)のでとても驚いた。

言語の壁があるので間違って解釈しないように、3回くらい聞き直した。

確かに、連続式蒸溜器を使用して単式蒸溜を2回しているという。

 

その後は熟成庫へ。

基本的にステンレスタンクで熟成(と言っても2、3ヶ月)させる。

ステンレスタンクに眠っているパーリンカをそのまま注いで飲ませていただく。

熟成の目的は「蒸溜したてのニューメイクスピリッツの荒々しさを落ち着かせるため」と「原酒と水の一体化」だ。なので言うなればこれはまだ不完全。ボトリングされているパーリンカの方が美味しい。ただこれは、現地で直接飲ませていただいたという高揚感から、この上ない美味しさを感じた。

 

奥に樽熟成のものもあるということでそちらも見せていただいた。

 

蒸溜所を建立したマールトン氏がその昔、フランスへ訪れコニャック造りを学んだ際にハンガリーで再現してみようということで造ったブドウのパーリンカが眠っていた。

樽が並ぶこの景色は様々な蒸溜所でよく見る光景だが、何度見ても感動する。長い間、静かに待っているのだ。瓶詰めされ、皆さんの手元に、口元に届くのを。

 

大切に管理、熟成しているのだなぁと思いを馳せていたら

「いやぁ、全然売れないからどうしようか悩んでるんだよね」

と衝撃の一言。

 

おいおい……どういうことだってばよ……

 

パーリンカにおいて重要なのは「フルーツの香り」だ。

ブランデーやウイスキーとは異なり、熟成感は求められていない。

いかにフルーツの香りが楽しめるかが最重要ポイントとなる。

ステンレスタンクで熟成をすることで樽の香りがつくことがなく、素材の香りがそのまま楽しめる。

ステンレスタンクの中で原酒と水が一体化することで、度数が和らぎ、口当たりも柔らかくなる。

つまり、樽の香りがしっかりついているパーリンカは「パーリンカとして」の評価はイマイチなのだ。

 

パーリンカの土俵では低評価。では、ブランデーの土俵ではどうか?こうなってくるとまた話がより厳しいものになってくる。

長期熟成といっても30年ではブランデー界では長熟とは言い難く、また長期熟成のブランデーに見られるランシオ香も感じるほどではない。

「どっちつかず」の蒸溜酒となってしまうというわけだ。

 

ただ、そういった今まで飲んだことがある何かと比較してみるのではなく、フラットに今目の前にあるものと向き合ってみると中々どうして、これが美味しい。

美味しいは美味しいのだ。

 

「売れないって仰ってますが、美味しいですねこれ。それで、どうしてるんですかこの子たち?」

 

「最近ジンが流行ってるでしょ?だからこれをベースにクラフトジンを作ってるんだよね」

 

えっ?

 

 

えっ???

 

待て待て待て。これを?ベースに??ジン???

 

ジンが悪いわけじゃない。しかしベースに長期熟成のブランデーを使用するなど……

いやいや、そんな、あまりにも勿体無い。

 

……そのジンは売れているんですか?」

No

 

もう頭を抱えるしかなかった。

 

少し差し出がましいが、なんとしてもここに眠っている長期熟成のパーリンカを救い出したい、そんな気持ちが芽生えてきた。

ただ先述の通り「どっちつかず」の蒸溜酒である以上、売りづらいのもとてもわかる。

パーリンカだけど、パーリンカじゃない。

パーリンカの本質は長期熟成ではない。

うーん……

 

「もうちょっと色々と、奥の方も見せていただいていいですか?」

熟成庫でいくつかの樽から飲ませていただいた中でも特に「あっ、これ美味しいな」と思うものがあった。

分かりやすいキャラメルのような甘さ、まろやかな口当たり。これは誰が飲んでも美味いと言うだろう。

そう確信したものがあった。

普段からコニャックやアルマニャックを飲んでいる方からすれば「これじゃない感」があるのも否めないが、いい意味で初心者向けのブランデーと言える。私自身も他の方よりは多くのブランデーを飲んでいるので、主観ではあるが心からそう思う。

これはブランデーを飲んだことがない人が想像する、なんか甘そうな蒸溜酒。

添加物は一切なく、それでいてこの甘さ。素晴らしい。

 

 

樽に書かれている蒸溜年数を見た

 

1994

 

弊社のメンバーは現在5人。全員が1994年生まれ。

これは運命だと思った。絶対にこの樽をそのまま購入させていただこうと決意した。

 

視察の翌年2024年に30歳である我々、そして5周年を迎えるBar Pálinkaにとってこの上ないパーリンカだ。

 

Márton és Lányai Pálinkafőzde

1994年蒸溜2024瓶詰め

30年熟成のブドウのパーリンカ

 

現地へ訪れなければ出会うことのなかった樽。

訪れたからこそ、蒸溜所の想いを汲み取ることができた。

ただ右から左に流せばいいと言うわけじゃない。

日本から遠い地で造られ、自分が間に入ってお客様へ届ける。

その間にわざわざ入るのであれば、このくらいはやらなければ。そう思い日々営業に臨んでいるがバーテンダーとしてだけではなくインポーターとしての義務感も感じていた。

そんなタイミングで出会った生まれ年の樽。

 

ーーー長文読むのが面倒な人はここから読んでーーー

 

20241224日でBar Pálinka5周年を迎える。

 

Bar Pálinkaではイベントごとにテーマを決めている。

 

今回のテーマは

「万物流転-パンタレイ-(panta rhei)

 

 

いつもの1杯。お気に入りのカクテル。いつものグラス。いつもの席。いつものBar Pálinka

いつもと違う気分。前回と違うグラス。新入荷のお酒、カウンターで同席する他のお客様、春から夏、そして秋、冬。全く同じBar Pálinkaは存在しない。

時は常に流れ、常に違うものとして、そこに変わらず存在している。万物流転。誰も同じ川には入れない。

飲む季節や時間、開栓のタイミングや注ぐグラスの違いから、厳密には同じお酒を飲むことは絶対にできない。 忘れがちな当たり前のことに焦点をあて、一瞬一瞬の味わいの違いに神経を研ぎ澄まし、無常を深く愉しむ。 5周年を迎える Bar Pálinka はこれからも変わり、進化し続けていく。 今年だけ今日だけその瞬間だけしか味わえない Pálinka をお愉しみいただきたい。

周年当日はこのパーリンカを飲むために土の子の寺崎さんにオリジナルの土器を作成していただいた。同じデザインだが、当然この土器を構成する土も全く同じものは存在するはずもなく、全ての土器は同じ形状ではあるが全く別の個体というわけだ。これもまた万物流転。

この土器は当日のお楽しみということで。

 

今回はプライベートカスク、1樽丸々全てを仕入れさせて頂いたためボトルは自由に選ぶことができ、ラベルはオリジナルで作成できるということでそちらにも気合いを入れさせていただいた。

 

ボトルはマールトン蒸溜所の限定品で使われている横長六角形ボトル。

 

そしてラベルはこちら

同じに見えるが実はラベルが全て異なり250種類のラベルが存在する。同じボトルは1本も存在しない。万物流転。

今回AI生成技術を応用し、Bar Pálinkaの壁に貼られているタイルの模様を微妙に変化させ、水彩画風でラベルを作成した。

デザインの詳細や画像はこちらから。

 

そしてこの限定パーリンカは販売もするので、Bar Pálinkaで飲むだけではなくご自宅でもお楽しみいただくことができる。

 

販売日時:20241220日(金)21時00分

蒸溜所:Márton és Lányai Pálinkafőzde

種類:パーリンカ

原材料:白ブドウ

容量:500ml

度数:40%(加水なし)

蒸溜年:1994

瓶詰め年:2024

樽熟成年数:30年(ハンガリー産オーク樽)

瓶詰本数:250

価格:12,000(税込)

 

テイスティングコメント

香り:しっかりとしたバニラ香、べっこう飴、味噌、ほのかにカモミール

味わい:カラメル無添加とは思えないほどの甘み、バターキャラメル、樽熟成ならではのほのかな渋味、白ブドウの爽やかなフルーティさ

ボディ:長い熟成期間で自然と度数が下がった凝縮感、最初から最後まで柔らかいアルコール感、秋の森林浴

 

オススメの飲み方

ストレート、ロック、ソーダ割り

サイドカーやフレンチコネクション、スティンガーなどカクテルベースにも

 

ボトルにはシリアルナンバーも入る。今回松沢が一本一本全て手書きで書き入れさせていただいた。同じお酒でも全く同じものは存在しない。万物流転。

 

 

 

ハンガリーの片田舎の熟成庫に眠っていた30年前のパーリンカ。マールトン氏の想いの詰まったパーリンカ。

パーリンカに、ハンガリーに、マールトン氏に、そしてこれまでのBar PálinkaやこれからのBar Pálinkaに思いを馳せていただければと思う。

歴史や、想いの詰まった1本。

 

ぜひこれからもBar Pálinkaと共に。

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