Szicsek(シチェック)蒸溜所との出会いは今から6年前の2017年、以前勤めていたバーでシチェック蒸留所のパーリンカを仕入れたことがきっかけだ。当時日本で一切流通のなかったパーリンカだがハンガリー関連の縁で数本入手することができた。
フルーツの絵柄が大きく描かれたラベル、独特のフォントで書かれている素材のフルーツ名、そして何より圧倒的な香りと余韻の長さ。世の中に数あるフルーツの蒸溜酒の中でも頭一つ飛び抜けていた。
ちなみに左端で見切れているメロンのパーリンカが松沢の人生を変えた一本。こいつがいなかったらパーリンカ専門でいこうとは思わなかっただろう。でももうハンガリー国内にも在庫が1本もないようで…悲しい。またいつか出会えるといいな。
蒸溜所のホームページから問い合わせをするとすぐに返信が来た。
「日本でパーリンカを!?クレイジーなやつだHAHAHA!うちの蒸留所ではもっと多くの種類のパーリンカを造っている。日本人のバーテンダーに興味を持ってもらえるなんて!最高だぜ!(意訳)」
めっちゃ喜んでた。
やりとりを続け、蒸溜所への見学をさせて頂けることに。
2017年10月人生初のハンガリーへ。
駅らしい。(お城じゃ〜ん!)
高級レストランかな…?と思いきやまさかのマクドナルド。
世界一美しいマクドナルドだ……
ハンガリーの首都ブダペシュトから電車を乗り継ぎおよそ3時間。ハンガリー中央よりやや南東に位置するTiszaföldvár(ティサフォードヴァール)にあるシチェック蒸溜所。
最寄のHomok駅。
「着いたよ〜ここで降りて〜 」
「こ…こ……?」
マジかよ。駅のホームが切り出した岩なんだよな。最高だぜまったく。
ジオゲッサーでこの看板を見つけた時はめちゃくちゃ興奮した。脳汁ダラダラ。誰にも伝わらない感動を1人で叫んだ。
ハンガリーの片田舎、池のほとりの長閑な場所で広大な農地を持ち、西日の眩しい大自然の中で彼らはパーリンカを造っていた。
最寄りの駅から歩いて15分ほど、蒸溜所の看板が見えてくるととても心が躍った。
蒸溜所の敷地に入ると、パーリンカの原料となるフルーツが山積みに。
何キロというレベルではない。何トンという膨大な量だ。片っ端から発酵させるようだが……果てしない量だ……
発酵具合を確認し、攪拌させる様子はまさに職人技。
パーリンカにおいて一番重要なのは蒸溜過程ではなく発酵過程だ。そして屋外で行うため強い日差しの中ハンガリーの職人達は必死に、でも楽しそうに作業をしていた。
屋内に入るととても綺麗に並べられた単式蒸溜機。ここで蒸溜を管理している職人に話を聞くと蒸溜して精製された原酒を細かく注ぎ分け、香りや成分を分析し、ベストなバランスで仕上げている。
蒸溜室。ハンガリー国内でもトップクラスで好きな空間。ここに住みたい。
蒸溜回数は2回。蒸溜後に原酒へ加水をし度数を調整。酒税がアルコール度数によって変わるため丁寧に調整し、大きなステンレスの容器で数週間寝かせる。熟成というよりもアルコールを”休憩”させているイメージ。そして原酒と水の一体化。
熟成というよりも”休憩”という言葉の方がしっくりくる理由はその期間だ。パーリンカは樽で熟成することもあるが、基本的にステンレスのタンクで熟成を行う。
熟成期間は長くても数ヶ月。ほとんどが2ヶ月ほどだ。熟成というには短い。そこで”休憩”という表現。この感覚、なんとか伝わって。
さて、色々見学が終わったところで試飲だ。
多すぎワロタ
せっかく来たからには全種類飲むけど…いや多すぎィィ‼︎
肝臓の違いを見せつけられた。ハンガリー人のバーテンダーと共に行ったのだが水のように飲み干していく。まあ色は一緒だしな…?
およそ30種類ものパーリンカをいただき、経験値上昇中という感じだった。幸せ。
そして輸入の話を切り出す。この段階ではまだ免許はなかったがいつか免許を取得すること。そして免許取得後にまた再び訪れその時に契約などを結びたいという思いを伝えた。
2019年、Bar Pálinka開業前に再訪した際にも「待っていたよ」と暖かく迎えてくれた。
ここでも色々と丁寧に教えてくれた。
そして数回のテスト輸入を経て今回の販売に至る。
蒸溜所に出会ってから販売に至るまで、6年間の思いを詰め込んだ。ぜひお楽しみいただきたい。
そして今回の発表はこれだけでない。初回は白ブドウ「Irsai Olivér」のみだが、現在他のフルーツのパーリンカも輸入手続き中だ。サワーチェリー、エルダーベリー、リンゴ、樽熟成白ブドウを検査中。これらは順調にいけば来年2月頃販売となる。乞うご期待。
余談だが、
この蒸溜所が好きなポイントが実はもう一つある。
なんとラベルを全て手作業で貼っている。
「これ糊って言うんだけど、紙を貼り付けることができる」と得意気に糊を取り出す担当者ガーリック氏。マジかよ…
異世界転生した気分だ。
そして「Modern Technology」と言って取り出したのがこちらの木の土台。
「これを使うと…なんと同じ高さに貼ることができる!」
「「「Wooooooooow!!」」」
茶番。好きすぎる。